30: CAFE TACUBA / TIEMPO TRANSCURRIDO

メキシコのロック・バンド、カフェ・タクーバ。
ここで紹介するのはベスト盤で、カフェ・タクーバを知らない人は名刺代わりに聴くといい。
そこらのメインストリーム系ロック・バンドとのレベルの違いを嫌というほど思い知らされるはずである。もう一度言おう、レベルが違うのだ。

ストイックに様々な音楽を吸収していった結果こうなりました、みたいな。楽しさいっぱいの真の意味でのミクスチャー・ロックだ。
ラップにメタルでミクスチャーなんていう程度の低さではなく、本当のミクスチャー・ロック。スカやレゲエ、ヒップホップ、エレクトロニカ、オルタナ系ロック、メキシコのムード歌謡みたいな曲から様々な断片を繋ぎ合わせた曲群。こいつらは魔術師か、と思った。
ラテン・ロックというしっかりとした土台があるから、こういういろんな事ができるのだろうな、と思う。

これはベスト版ともあって本当にハチャメチャっぷりが堪能できると思う。で、時々心地の良いメキシコの風が流れてくる。勿論行ったこともないので分からないが、きっと自分達のルーツに自信があるからこその音楽なのだろうな、と思った次第。多分メキシコは今一番熱いとこ。

 

29: THE LOUNGE LIZARDS / same

このアルバム・ジャケットを見る限り、50年代のジャズか、と錯覚してしまう。実際は1980年発表である。
ジャズは正直70年代ぐらいまでしか知らなくて、しかもかなり断片的にしか聴いてこなかったせいか、フェイク・ジャズだのフューチャー・ジャズ(ここでは全く関係ないけれど)というジャンル名(?)を最初聞いた時も、意味がよく分からなかった。一体何がフューチャーなのだろう。まぁ、プログレッシヴ・ロックやモダン・ジャズみたいなものだろうか。

この盤を語る時、いつも出てくる話題が、ジョン・ルーリー(ss,as)が俳優で、どういう映画に出てきたのか、が語られるわけだけれど、それが何を意味しているのか、正直私には分からない。というより、どうでもいい気がする。それと同時にここまでの文章に意味はない。ごめんなさい。

かなり無責任な、そして意味のない前置きが長くなってしまった。それはさて置き、肝心の内容だが傑作である。
それぞれの楽器の音が非常に面白いのだが、例えばアントン・フィアのドラム。音自体は非常に騒々しいのだけれど、これには建物が崩壊するかのようなスリルを感じることができる。サックスのメロディと奇妙なリズム隊のズレが妙にハラハラさせる。居心地の悪さも感じる。まるで違うロックとジャズと現代音楽を同時平行に進行させたような居心地の悪さだ。
そこに安心感はこれっぽっちもないが、スリルだけはある。
メンバー全員がヘロイン中毒、信頼関係ゼロという逸話は、これを聴いていると非常によく分かる。

 

28: NURSE WITH WOUND / AUTOMATING VOLUME 1

それにしても、この人達一体何枚リリースしているのでしょうか。そして、その膨大な作品群の中でとりわけ目立つのがこの超・秀逸なアートワーク。アナログが欲しくなってくる。(特に1stのCHANCE MEETING。)

NURSE WITH WOUND(以下NWW)は、70年代後半から活動するUKノイズの重鎮。CURRENT93と双璧。スティーヴ・ステップルトンを中心的に、その他のメンバーはかなり流動的。先述した通り、作品枚数はザッパもびっくり60枚を超えているらしく、私はやはりNWWにあまり詳しくはないので、一概にどうだ、とかは言えない。ごめんなさい。

で、このアルバム。ノイズとは言ってもやたら不快でキリキリするようなノイズではなく(私はあまりそういうノイズは得意でない)、コラージュを多用したアーティスティックな作風。あくまでこの作品に限って言うならばファウストが好きな人なら余裕でピンと来るだろう。語りや声、会話の挿入具合や遠近的な挿入、特に様々なパーカッションの音が非常にユーモアラスだ。そして、ひたすら心地良い。全然聴きながら小説も読める。(いや、寧ろ読みやすいかも)
また、時にはそういった機能的なBGMから極めて現実的な悪夢に突き落とし得うる音楽性の奥深さも魅力だ。例に挙げれば、薄っぺらいマーチから泣き声への転換等、様々な落とし穴が存在する。

まぁ、私のよく分からないレビューを読むより、実際に聴いてみてはどうでしょうか。もちろん、万人にお薦めできませんが(笑。
(http://www.brainwashed.com/nww/)

 

27: JOHN ST.FIELD / CONTROL

このアルバムも私的必殺名盤です。(そんなんばっかですが)現在は、ジャッキー・レヴィンとして活動しているSSWで、この後DOLL BY DOLLを結成。この盤は、JOHN ST.FIELD名義でオリジナル盤が究極の域でレアな作品。(1975年)

大概こういうフォーク系アーティストのレアな作品は中身が伴っていなくて、がっかりする事が多いが、このアルバムはもう全然レベルが違う。ジャッキー・レヴィンを知っている人からすればこの評価の低さに苛立っているのではないだろうか。
とりあえず、この声。

なんて素敵な声なんだ、と唸ってしまった。再生ボタンを押した瞬間に周りの空気が変わる、そんな音。そして、なんだか寂しくて、哀しくて、やるせなくなってしまう。それも1曲目に集約されている。何回リピートし続けたことか。長編小説を読んでいて、もうすぐ読み終わる時の切ない感じ。

このアルバムは多分プログレ・リスナーか、ジャッキー・レヴィンのソロのファンぐらいしか辿り着かないアルバムだ。内容はと言うと、サイケ・ロック。サイケと言うより、とりあえず歌。
ほんのり切ない気分を味わってみたいという方はどうぞ。
(http://www.jackieleven.com/)

 

26: JOE MEEK & THE BLUE MEN / I HEAR A NEW WORLD

前週のスピリチュアル・ネイチャーは神隠しっぽい美しい違う世界を堪能できるが、今回のジョー・ミークは何とも不思議な音像の織り成す宇宙旅行を堪能できる。将来は実際に宇宙旅行が行われるのだと思われるけれど、お金のない、そこの貴方。これ一枚でOKです。1900円で宇宙旅行へ!

ジョー・ミークはテルスターのヒットで知られるフィル・スペクターと並んで称される奇才。ご存知の方も多いと思う。
多重録音を駆使しまくり、ここは一体何処なのだろう、と思わせるような時間軸を無視しまくったこの音。この浮遊感。そして、このポップさ。曲の進行、音自体は極めてチープなのにそれがたまらなく心地良い。

1961年旧ソ連、ガガーリン飛行士が乗ったボストーク宇宙船が人類初の宇宙へ飛び立った。そして『地球は青かった』と言った。
ジョー・ミークは1960年に音で宇宙旅行をし、新しい世界を聴いたのだった。

ジョー・ミークは鼻歌を歌いながらピストル自殺したのかもしれない。

 

25: 富樫雅彦 / SPIRITUAL NATURE

個人的にフリー・ジャズというジャンルにしても、フリーという言葉とは裏腹、ある程度イメージを持ってしまう。例えば、ジョン・コルトレーンやアルバート・アイラー、オーネット・コールマンとか。

富樫雅彦は当然日本人であって、このアルバムには日本らしさが顕著に表れている。『日本人のジャズ』というのを表現できる人は意外と少ないのではないだろうか。これは、ライブ録音だが、アルバム・ジャケットがその内容を見事に表していると思う。

富樫雅彦氏の生命を思わせる神秘的なパーカッション、そこに流れる血であるかのような渡辺貞夫氏のフルート。表現力に脱帽させられる。

うーん、個人的な感想は、何だか『神隠し』に遭ったような感じ。もちろん、神隠しに遭ったことはないし、民俗学にも詳しくはないのでよく分からないが、私はそう感じた。

とりあえず、この自然な間の取り方は凄いと思う。

 

24: JOHN GREAVES / SONGS

ジョン・グリーヴスは元ヘンリーカウのベーシストである。フレッド・フリスやクリス・カトラーはアヴァンギャルドを追求したが、ジョン・グリーヴスは彼の持つポップ性を追及した。

彼は歌心というのを思い出させてくれるアーティストでもある。ここに詰まった歌は、永遠を思わせるものだ。普遍的という言葉を何気なく使ってしまうが、やはりこのアルバムこそこの言葉が相応しい。

参加ミュージシャンは彼の人柄を表したような顔ぶれで、ロバート・ワイアットを始め、エルトン・ディーン、ピーター・ブレグヴァド、etc。
特に、2曲目SONGにおいてのロバート・ワイアットの歌唱は彼のキャリアを代表するものであり、筆舌に尽くしがたい美しさを放っている。

こういう自分の大好きなアルバムはいつも文章(言葉)が出てこなくて悔しくなる。出来るだけ最大の言葉を書こうと思ったが、はっきり言ってこの数倍は素晴らしいものと思って貰って良い。持っていない人は廃盤になる前に探して下さい。秋にもピッタリなんで。(もう廃盤?)

 

23: JONI MITCHELL / BLUE

これは、正直凄い。

私は最初に聴いた時のインパクトを大切にしていると言うより忘れられないタイプで、例えば初めてジョン・レノンのマザーを聴いた時の感動、重苦しさは言葉に言い表しがたいものがあった。このジョニ・ミッチェルのブルーは私の中でまさしくソレで、ジョニ・ミッチェルの透き通った物悲しい声にノック・アウトされてしまった。

最近は『どうだー!』と言わんばかりの演奏を聴いていると疲れてしまう。つまり、『この演奏凄いだろー』系を聴くのが少し億劫になっている。で、やっぱりそんな時はJAZZも良いんだけど、このBLUEは正しくジャスト・フィット。ほんのりとしたジャズ臭と、アコースティックな温もり、そして何より憂いを含んだ、それでいて優しいジョニ・ミッチェルの歌。時間を止めてくれそうな感覚。繊細な人なのだろうなぁ、と思う。

逃避行も良いが、個人的にはやっぱりこれ。ジャケも最高。死ぬ直前はこれを聴いていたい。

 

22: LEWIS FUREY / same  

秋にぴったりの声は、やっぱりこのルイス・フューレイでしょう。ピーター・アイヴァースもそうなのだが、声に物悲しさが感じられ聞いていると妙に切なくなる。曲調はタンゴ、ワルツ、クラシック、ロック、本当に様々な要素が溶け込んだもので、何よりも優雅なポップスである。

とりあえず、ハスラーズ・タンゴだろう。優美さ、憂い、虚無感がごちゃごちゃに入り交ざりながら眩暈を起こさせる。ケバケバしいキャバレー・ソングから一転、クールな声を響かせるラスト・ナイトもたまらない。

この虚しさはどこからやってくるのか。多分このルイス・フューレイに至っては天性のものと思えてならない。いやぁ、これはハマリます。アイヴァース好きも是非。

 

21: CABARET VOLTAIRE / Mix-Up

最初に断っておくと、私はあまり好んでインダストリアル・ロックを聴く人ではない。しかし、このキャバレー・ヴォルテール(通称、キャブス)は結構好んで聴けるものの一つでよく聴いている。

出身は、イギリスの工業都市シェフィールド。名の由来はスイス、チューリッヒ・ダダの拠点(同名)から。やっぱり工業都市出身か、と頷ける音なのだが、どこかしらCANだったり、VELVETS(ライブでカヴァー)のアヴァンギャルドな要素がかなりあったりと、心地良い。また、SPK(←これも好き)とかと違って、曲の原型が幾分かはっきりとしており、どちらかと言えば聴きやすい。

ダダイスムとは、エスタブリッシュメント性を否定するのがその根底にあるのだが、このキャブスはエスタブリッシュであると見せかけた内側からの破壊が行われているのである。つまり、毒っ気はファウスト。キャブスならこれ。

 

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