BRIAN ENO |
1948年、イギリス、サフォークのウッドブリッジに生を受ける。 カソリック系の中等学校に通い、イプスイッチ美術学校に入学。ウィンチェスター美術学校にて芸術学位を取得。 芸術学校に通いながらも、心は音楽に惹かれていたようで、テープ・レコーダーの電位に興味を覚えたり、声音の実験、人工頭脳学の勉強に没頭する。1967年以降は様々なグループを結成したり、音楽活動に精を出す。 1969年アートスクールを出て、ロンドンへと引っ越す。1971年にはロキシー・ミュージックに加入し、1972年に正式にレコード・デビューを果たす。ロキシー・ミュージックにおいて2枚のレコードを発表するも、リーダーでもあったブライアン・フェリーとの確執、または音楽性の違いにより脱退する。(近年イーノはフェリーのアルバムに参加したりもしている) その後はソロとして活動、自身のレーベル(オブスキュア・レーベル)を設立し、または様々なアーティストとコラボレイトしながら彼独自の音楽を多々残して行くことになる。その中でも『DISCREET MUSIC』(4th)に端を発する所謂『アンビエント・ミュージック』の創造が音楽界に衝撃を起こす。 事故に合い病院に入院している時、見舞いに訪れた友人が持ってきてくれたレコード、そのレコードのヴォリュームが小さすぎ、音量を変えようと思っても身動きを取る気力もなく、ただその聞こえるか、聞こえないか微妙な主張しない音楽に身を傾けた。それがイーノにとって『音楽の新しい聴き方』の発明に繋がったという話は余りにも有名だろう。 その後は環境音楽と言ったジャンルを徹底的に追及し、一方でプロデュース活動にも精を出し、ニューウェイヴをも支えたと言っても良いほどの多彩な活動ぶりが光る。 現在ももちろん活動中なのだが、あまりにも活動範囲が広すぎてとてもじゃないが把握できません。 |
個人的にはイーノは初期のウタ物が大好きで、愛聴盤となっております。もちろん、ロキシーの1stもお薦め。 イーノの音楽はかなりいろんな聴き方ができるものが多く、非常に多角的な視点を持って作られています。アンビエントものもそうなんですが、コラボものなんかでもイーノ特有のエフェクトが入っていたり、おお、と言うような音楽の楽しさがイーノには詰まっています。現代音楽の方面からも尊敬される人物で今やもう何処か遠くの人のようになっています。(最初から遠い人物ですけどね) まぁ、あまりこれを聴け、なんて言えるアーティストじゃぁないです。とりあえず、不眠症の方はアンビエント聴いてみては?としか言えないです。でも私のようなロック的アプローチが強いアルバムから入ったのは今でも幸運であると思っています。(アンビエントから入った方は、多分イーノのウタものにつまづきそうな感じがする) |
HERE COME THE WARM JETS |
NICK KOOL and the KOOLAIDS(7),NICK JUDD(4,8),ANDY MACKAY(6,9) -keyboards ROBERT FRIPP(3,5,7),PHIL MANZANERA(1,2,4),PAUL RUDOLPH(3,10),CHRIS'ACE' SPEDDING(1,2) -guitars BUSTA CHERRY JONES(2,4,6,8),BILL MACCORMICK(1,7),PAUL RUDOLPH(3,5,10),JOHN WETTON(3,5) -bass guitars SIMON KING(1,3,5,6,7,10),MARTY SIMON(2,3,4),PAUL THOMPSON(8) -percussion ANDY MACKAY -saxophone septet on 9 LLOYD WATSON -slide guitars on 9 SWEETFEED -backing vocals on 6 and 7 CHRIS THOMAS -extra bass on 2 ENO -vocals,keyboards,snake guitar,synthesizer,other instruments |
1973年発表の1st。ロキシー・ミュージックでブライアン・フェリーに『二人のブライアンはいらない』 と言われたイーノは可能性を求めてソロや、様々なミュージシャンとのコラボレーションに移行する。 彼の場合、ノン・ミュージシャンとして音楽的な発想に囚われない、彼のセンスによるものが大きい非常に変わった形の音楽家である。 この1stアルバムも2nd同様、ロキシーの1st、2ndと似通った部分も多々あり、彼の存在が ロキシーにおいてどれだけ尊大だったか、思い知らせてくれる。イーノの奇妙でネジレたポップ感覚と 様々なゲストの音が綴る音楽の楽しさを全て抽出したようなアルバムである。 |
クリス・スペディングのギターが歪みに歪みまくり大音量で爽快なマンザネラとの共作M1,NEEDLES IN THE CAMEL'S EYE この73年の時代にこのポップ感覚はかなり新しい。オルタナ、グランジをもイーノが生み出したのか、と考えさせられる。 M2,THE PAW PAW NEGRO BLOWTORCH,ユーモアラスでイーノしか考えられないようなポップ・ソングだ。ニューウェイヴな香りやら3分の曲の中に目一杯らしさが詰め込められている。 M3,BABY'S ON FIRE,801やケヴィン・エアーズ、ニコ、ジョン・ケイル等との共演でも取り上げられた名曲。フリップのギターはやっぱり惹き付けるものがある。やや混沌としていて重い。イーノのヴォーカルとのコンストラストも面白い。 M4,CINDY TELLS ME,これもM1同様マンザネラとの共作。爽快感とも言えそうなポップ感覚、バックでは ノイズとも言えそうなギターの音量調節が不思議な眩暈感覚を起こさせる。 M5,DRIVING ME BACKWARDS,半ばやる気なしのようなイーノのヴォーカルが非常に退廃的で面白い。 この曲もフリップの必殺ギターが聴ける。一音一音の主張。 M6,ON SOME FARAWAY BEACH,前曲の混沌さから抜け出し、青空が広がったようなポップ・ソング。何処かで聴いたようなメロディだ。 M7,BLANK FRANK,フリップとの共作。こういう曲を作れるところが凄い。非常にヘヴィで格好良い。問答無用の フリップの存在感が強烈だ。ポップ、アヴァンギャルドが渾然一体となった好曲。 M8,DEAD FINKS DON'T TALK,詩を朗読しながら喜劇調(?)に綴ったユーモアラスな曲。 M9,SOME OF THEM ARE OLD,穏やかな空気が妙な幸福感を生み出す。 M10,HERE COME THE WARM JETS,前曲から繋がるように鐘の音で幕を開ける。 ポジティヴィティ溢れる感覚に陥るのは、タイトルが射精の瞬間を表しているからなだろうか? 虚無感と表裏一体とも言える。 |
ジャケットには、この時代を表したようなグラマラスなイーノが写る。しかし、内容は20世紀から21世紀をも超えようとしている。実験的な手法も、イーノらしいポップ感覚も全てが見事に溶け合ったイーノ流ポピュラー・ミュージック。2ndと共に必聴! |
TAKING TIGER MOUNTAIN |
ENO -vocals,electronics,snake guitar,keyboards PHIL MANZANERA -guitars BRIAN TURRINGTON -bass FREDDIE SMITH -drums ROBERT WYATT -percussion,backing vocals (SPECIAL GUEST) PORTSMOUTH SINFONIA -strings on 7 RANDI+THE PYRAMIDS -chorus on 8 THE SIMPLISTICS -chorus on 2+10 ANDY MACKAY -brass on 3 PHIL COLLINS -extra drums on 4 POLLY ELTES -vocals on 4 |
1974年発表の2nd。前作と同様のアヴァン・ポップと形容したくなるようなサウンド。 ロキシーの1st、2ndも思えばイーノの色が多分に出ていた。ロキシーからフェリーが抜けたものと考えてみるのも面白い。 特筆するべきは、このメンバー(ゲストも含めて)だろう。実にイーノの活動範囲の広さを思わせてくれる。このアルバムは、主にブライアン・イーノとフィル・マンザネラのアイデアによって制作されている。 |
サウンドは絡みつくようなイーノのヴォーカルを軸に、奇妙で捩れたポップ感覚に覆われている。 M1,BURNING AIRLINES GIVE YOU SO MUCH MORE,が全ての曲を表していると言ってもいいだろう。 ヒステリックな匂いも充分ながら、妙に愛着感のあるメロディが病みつきになる。 M3,THE FAT LADY OF LIMBOURG,アンディ・マッケイのブラスと絡み合うイーノのヴォーカルが 妙な空間を生む。 M6,THIRD UNCLE,スピード感がなんとも言えないイーノの代表曲。801 LIVEでも取り上げられている。(またはバウハウスがカヴァーしニューウェイヴの一線に浮上) M10,TAKING TIGER MOUNTAIN、においての浮遊感は今思えば後のアンビエントに繋がっているのかもしれない。 捨て曲はもちろんなし。全曲一貫したイーノ流ニヒリズム。 |
後のNEW WAVEの指標ともなった初期の傑作。 このポップ感覚はやはりこのイーノのアルバムにしかない独特なもので一度ハマれば病み付きになるだろう。ジャケット・アートも秀逸。 |
ANOTHER GREEN WORLD |
PHIL COLLINS -drums,percussion PERCY JONES -fretless bass PAUL RUDOLPH -anchor bass,bass,snare drums,bass guitar,assistant castanet guitars ROD MELVIN -rhodes piano,lead piano JOHN CALE -viola section,viola ROBERT FRIPP -wimshurst guitar,restrained lead guitar,wimborne guitar BRIAN TURRINGTON -bass guitar,pianos BRIAN ENO -snake guitar,digital guitar,guitars,synthesizer,tape,organ,piano,yamaha bass pedals,synthetic percussion,desert guitars,electic percussion,treated rhythm generator castanet guitars,chord piano,farfisa organ,hammond organ,peruvian percussion electric elements,unnatural sounds,prepared piano,choppy organ,spasmodic percussion club guitars,uncertain piano,leslie piano,grand piano |
1975年発表の3rd。アナザー・グリーン・ワールド。 前作から急激に変わったアルバムの温度。まるで作っている人間ですら存在しないかのような空気が常に流れていて、何だかこのアルバムをかけていると怖くなる。このジャケットもそうだ。このジャケをしばらく、10分間ぐらい見つめてみて欲しい。怖くなってきませんか? アナザー・グリーン・ワールド −もう一つの緑の世界 |
M1,SKY SAW M2,OVER FIRE ISLAND M3,ST. ELMO'S FIRE M4,IN DARK TREES M5,THE BIG SHIP M6,I'LL COME RUNNING M7,ANOTHER GREEN WORLD M8,SOMBRE REPTILES M9,LITTLE FISHES M10,GOLDEN HOURS M11,BECALMED M12,ZAWINUL/LAVA M13,EVERYTHING MERGES WITH THE NIGHT M14,SPIRITS DRIFTING |
怖い、怖いと連呼する悲惨な解説になってしまった感があるが・・・まぁ、それはさて置き、簡単に紹介しようと思う。とりあえず、M3のセント・エルモス・ファイアーはロバート・フリップのギターがこれまた有名で今聴いても実に新鮮だ。またアンビエントへの方向性もすでに見え隠れしており、(まんまアンビエントな曲もある)現在においてもこの作品の重要性は上がるばかりである。 巷ではイーノの最高傑作との声も高い名盤なわけだが、個人的なこのアルバムの魅力はやっぱり『怖い』こと。聴く度に次々と知らない顔が出てくるような多角的な作品で、いわゆるスルメ盤というやつです。いや、このスルメ盤と言う言葉も適当でない。取り付かれたら最後な不思議盤。 |
DISCREET MUSIC |
Performed by the Cockpit Ensemble Conducted by the Gavin Bryars(who also helped arrange the pieces) Recorded at Trident Studios 12.9.75 Engineered by Peter Kelsey. Produced by Brian Eno |
1975年発表の4th。 録音時期はアナザー・グリーン・ワールドより早いが、発売は後。イーノは、フィル・マンザネラの作品「ダイヤモンド・ヘッド」への参加後、交通事故に遭う。その入院生活での出来事がヒントになり「聴くとも無しに聞き流せ、環境に溶け込んだ音楽」という発想を得る(上記のバイオ参照)。勿論、ロバート・フリップとのコラボレイト作品「NO PUSSYFOOTING」(1973年)がその布石ではあるが、明確な意識の下制作されたこのディスクリート・ミュージックこそアンビエント・ミュージックの発端と見られている(イーノもそう発言している)。 1975年にイーノはオブスキュア・レーベルを設立。このアルバムは同レーベル3番手(4枚同時に発表されたが)として発表。因みに、1番はギャヴィン・ブライヤーズ「THE SINKING OF TITANIC」。 この作品の成果は、アンビエント作品の金字塔でもある「MUSIC FOR AIRPORTS」に持ち込まれる。 |
M1,DISCREET MUSIC (ディスクリート・ミュージック) M2,THREE VARIATIONS ON THE CANON IN D MAJOR BY JOHANN PACHELBEL (バッヘルベルのカノンに基づく3つの協奏曲) (@) FULLNESS OF WIND (フルネス・オブ・ウインド) (A) FRENCH CATALOGUES (フレンチ・カタログ) (B) BRUTAL ARDOUR (ブルータル・アーダ) |
M1は、シンセサイザーで録音された単純なメロディを数種のパターンで流し、それにディレイをかけ、重なり合わせては消える「音楽の自己生成」(解説より)というコンセプトの下、制作されている。M2もブライアーズ指揮弦楽四重奏のテープにディレイ効果をかけ、偶発的な重なり、広がりを目論んだものである。詳しくはレコード(または紙ジャケ)の裏にシステムと解説が書かれているので参考に。 基本的にフレーズは同じで、山あり谷ありの展開は勿論ない。かの有名なバッヘルベルのカノンにおいても一番有名なフレーズは出てこない。 多方面から若干違う音色のメロディがゆっくりと現れ、消える。いつ終わるとも無しに繰り返される(生み出される)メロディに安堵感すら覚えてしまう。アンビエント・ミュージックとは言えど、極めて中毒性が高く、自分の環境に埋没するというより、別の世界が近くに流れているような感じだ。その世界は環境に応じて間接的な変化を示すが、直接的には訴えてこない。ただ繰り返し、ズレ、自動生成されるシステマティックな世界である。 控えめな(discreet)音とは言っても、アーティスト・エゴを持つ以上並大抵のことではない。スティーヴ・ライヒやエリック・サティとは違い、ポップ、ロック界に籍を置き、そこでイーノの世界観を根付かせた、というのは功績という言葉では余りに足りない。 |
AMBIENT2 |
HAROLD BUDD -piano BRIAN ENO -effect,synthesizer,keyboards |
1980年発表。『アンビエント・シリーズ』は2作目に当たる。 アメリカの音楽家、ハロルド・バッドと組み、制作された。 前作のMUSIC FOR AIRPORTもそうなのだが、聞き流しても見事その場に 溶け込ませる手腕にはやはり脱帽させられる。しかし、昨今のいわゆるヒーリング・ミュージック とは絶対に一緒にできない。ハロルド・バッドのピアノのタッチ、それを言い方は悪いが ボヤけさせるイーノのエフェクト。実に神秘的だ。邦題の『鏡面界』という言葉は実に言い得て妙。 (プロデュースはイーノ本人) |
M1,FIRST LIGHT M2,STEAL AWAY M3,THE PLATEAUX OF MIRROR M4,ABOVE CHIANGMAI M5,AN ARC OF DOVES M6,NOT YET REMEMBERED M7,THE CHILL AIR M8,AMONG FIELDS OF CRYSTAL M9,WIND IN LONELY FENCES M10,FAILING LIGHT |
このアルバムの特異な点は、聴いているリスナーの世界に溶け込ませるのではなく、聴いているリスナーの周りの空気を変えるところにある。 おぼろげな風景、幻想性、神秘性、静かな都会、自然、ノスタルジア、そう言ったものも感じ取れるだろう。そして、時計の針をもスローにさせる効果がある。 ヒーリング・ミュージックと言う言葉は地に落ちてしまった感があるがもし、これをヒーリング・ミュージックと呼ぶならば、なんとも言えない贅沢感を味わえるだろう。夜、音量も小さめに永遠と流しておきたくなる静かな、それでいて深い音楽。 アンビエント・シリーズ中美しさ(怖さ?)は随一。必聴! |